2013年8月30日金曜日

メディアという「権力」との些細な戦い

先ほど、夕方、あるメディアの記者から電話があり、ある事柄についてコメントを求められた。コメントを求められた内容については、隠す必要はないが、今回のブログの中身に直接関係はないので省略する。

来客の接待中ではあったが、電話の記者に対して、いつもの通り、自分の考えをできるだけ丁寧に分かりやすく話をするよう努めた。私の名前を出して記事にするかもしれない、ということなので、「その場合には知らせて欲しい」と伝えて、会話を終えた。

その後しばらくして、別の来客と夕食中に、再び同じ記者から電話をもらった。先ほど話した内容の確認をしたいようだったので、再度、自分の考えを話した。先方の話しぶりからして、正確に理解しているかどうか不安に思いながらも、話を続けた。「何なら、私がコメントを自分で書きますか」とまで話したが、それは断られた。

話の途中で、「記事にする前に、私の話が正しく伝わっているかどうか確認させてもらえないだろうか」と丁重にお願いしたところ、記者は「それはできない」ときっぱり答えた。「記事にする前に、外部者に介入をされるのは困る」という理由のようだった。情報を提供した私が外部者だと?

「では誰が話の内容が正しいかどうかを判断するのですか」と聞くと、記者は「それは自分だ。自分が正しく書く」という。そして、「いやなら、名前は出しませんから」とも言われ・・・、ここでキレた。

記者はきっと私の話した内容を忠実に書いてくれるだろうとは思いたい。

しかし、私には、過去に苦い経験がある。

以前、南スラウェシ州政府のアドバイザーをしていたときに、ある内容について新聞記者からコメントを求められた。何度も念を押して、同じ内容を繰り返して、記事にする前に内容を確認させてもらえることも確認した。しかし、内容確認の連絡はなかった。

翌日、その新聞を見てびっくりした。私が何度も確認した内容とは全く異なる内容が記載されている。記者の想像力のすごさに感心してしまうほどだ。そして、私のインタビュー記事の隣には、私のカウンターパートである政府高官のインタビュー記事も載っていた。この二つの記事の見出しが、カウンターパートの政府高官と政府のために働く私の見解とが、真っ向から反対するような見出しになっていた。

私は政府高官と会い、事情を説明し、私と彼との見解が基本的に同じであることを確認したうえで、その新聞記者と編集担当者のところへ出向き、強く抗議した。実際に私とインタビューした記者は面会を避け、編集担当者は「すべては正しい手続に則って取材は行われ、自分たちの過ちはない」の一点張り。

幸い、南スラウェシ州政府側は事情を十分に理解してくださり、大きな問題となることはなかったが、私がカウンターパートと反対の意見を持っていると思い込んでしまった方々もいたに違いない。

話を戻して、「私の話が正しく伝わっているかどうかを私自身が検証する」ことは、私が記者の報道の自由を侵すことなのだろうか。なぜ、私が話したことが正しいかどうかを、私本人ではなく記者が正しいと判断できるのだろうか。これは、記者の横暴以外の何物でもないのではないだろうか。

私からお願いして書いてもらうのではない。記者が勝手に私に電話をしてきて、取材協力を頼み、こちらは時間をとって、誠実に話をしただけである。私がその内容を確かめることが、記者の報道の自由を侵す「外部者」の介入になるのか。しかも、それがいやなら私の名前は出さない、とまで言われた。いったい、何様のつもりなのか。

情報提供者に対する誠意というものが、この記者にはないのだろうか。いや、もしかすると、こんな私を「うざい奴」と陰でせせら笑って馬鹿にしているかもしれない、なんて思ってしまうような対応だった。

勘違いしてはいけない。その記者は、メディアはペンで世の中を変えられる、一種の権力を持っている、と思っているのかもしれない。しかし、それは、「事実に基づいているかどうか」を謙虚に情報源へ確認することをせずに、どんな話でも自分で好きなように作ることができるのだ、ということではないはずだ。

明日の当該メディアに、その記者の記事は載るのかもしれない。自分で深く調べることもせず、電話一本で気軽に、私から聞いた話を適当につまみ食いした内容の記事。もし万が一、私の名前が出るなら、正しい内容であって欲しいと祈るほかはない。

それでも、私は何か間違ったことを言っているだろうか。

かつて、同じメディアの別の記者は、記事を書く前に何度も内容を確認するための電話をしてきて、私がそれでいいという判断をしたうえで、記事にしてくれていた。私の思いまで入れ込んだ、素晴らしい記事を何度か書いてくれた。その記者は、今はそのメディアにはいない。

メディアという「権力」との戦い、というにはあまりにも些細な話ではある。

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