2013年10月13日日曜日

食の輸入依存度上昇と遺伝子組換え

インドネシアは資源豊富な豊かな国である。まだ農業が重要な産業である。そんなインドネシアで、気がつかない間に、食料における輸入依存度の増大、遺伝子組換え飼料・食材の既成事実化が進んだ。これからこの状態を変えるのは困難かもしれない。

インドネシア料理に欠かせないのはニンニクである。 筆者の記憶が正しければ、1980年代の自給率は50%以上、それが今では10%台に落ちた。中国産のニンニクのほうが粒が大きく、いつの間にか、輸入ニンニクの市場シェアが大半になってしまった。

インドネシアの従来からの重要なタンパク源は大豆である。テンペ菌で大豆を発酵させたテンペや豆腐は、安価でタンパク質を容易に摂ることのできる必需食品である。この大豆は、1990年代初めにインドネシアは自給を達成したのだが、いつの間にか自給率は下がり、今では2割程度に落ち込んだ。テンペ・豆腐業者によると、輸入大豆のほうが粒が大きくて味がよいので、もう国産大豆には戻れないとのことである。

この輸入大豆は、主にアメリカからのもので、遺伝子組換え大豆なのである。そう、我々はインドネシアにおいて、テンペや豆腐を食べ、豆乳を飲んだりしているが、知らないうちに遺伝子組換え大豆を食べているのである。

遺伝子組換え製品のインドネシアへの流入は、まず、棉花が最初だった。1990年代半ばから、南スラウェシ州南部などに遺伝子組換え棉花が導入された。このときには、「人間の口に入るものではない」との理由で導入が進められた。

その次が飼料用トウモロコシである。これも直接人間の口に入るわけではないが、家畜を通じて人間の口に入ることになる。「遺伝子組換えトウモロコシは農家所得を2倍にする」という触れ込みで政府が喧伝し、危険性を一切省みることなく、政府は導入を進めた。しかしその後、農家の技術的能力の問題と政府側の指導不足のためか、農家所得は2倍になるどころか逆に費用負担が増えて収入が減り、「約束が違う」と農家が怒り出すこととなった。遺伝子組換えトウモロコシの普及に努めていた米国系モンサントは、後に農業省へ多額の贈賄を行っていたことが明るみになった。それでも、遺伝子組換えトウモロコシが全面禁止になったという話は聞かない。

インドネシアは舐められていたのかもしれない。一般国民レベルでの遺伝子組換え食品に関する無知を逆手に取られ、国民が知識を得て気づく前に、もうすでに既成事実が出来上がってしまったのである。今さら、輸入大豆抜きのテンペや豆腐へ転換するのは困難である。

スハルト政権が倒れ、民主化とともに経済効率化政策が採られるなかで、コメ、大豆、トウモロコシなど基幹食糧の流通管理を行ってきた食糧調達庁の役割が否定され、市場化されていった。市場メカニズムに任せることで、国産品よりも価格が安く、品質のよい輸入ニンニクや輸入大豆が一気に市場へなだれ込み、市場シェアを高めていった。

政府にとって重要なのは市場での需給確保である。先のニンニク輸入一時禁止措置の時に見られたように、国内生産からは市場状況に適応した柔軟な供給ができず、価格が急騰するという事態が起こった。輸入によって、スムーズな需給調整が可能になる側面がある。

輸入ニンニクや輸入大豆をめぐっては、輸入業者によるカルテルの存在が頻繁に指摘される。現在、牛肉輸入業者の選定をめぐって、特定政党の政治資金捻出のために、国会議員が口利きをした事件が大問題となって、福祉正義党はその清廉イメージを失ってしまったが、輸入業者と政治家の癒着が大きな問題となっているのである。

しかし、そこで輸入された大豆の大半が遺伝子組換え大豆だったのは、背に腹は替えられないということだったのか。世界的には、西欧や中国などで遺伝子組換え食材の輸入を避ける方向が 有力となっており、輸出国としては、インドネシアのような国は大変にありがたいはずである。

こうした農産物の国産化比率を上げなければ、という議論はないわけではないが、その多くがナショナリズムの観点からであり、食の安全という観点がほとんど見えてこない点がやはり気になる。インドネシアの食のマーケットは、ようやく安心・安全への意識が出始めているとはいえ、大豆などに見られるように、ある意味、それではもう遅すぎるのではないかという懸念を持ってしまう。アメリカが大丈夫だというのだから大丈夫、ということで済ませているのだろうか。

こうしたインドネシアの状況を日本の今に重ね合わせてみると、 いろいろな点で興味深い。農家と消費者がどうつながれるか、という点が鍵になるのではないかと思う。インドネシアでも日本でも、根本の問題は同時進行しているように思える。

とはいえ、テンペや豆腐のないインドネシアの食生活はあり得ない。

上記の問題とどこかでつながるかもしれないが、最近よく聞くのは、ジャワの農村部で若い世代が農業を継がず、後継者問題が意外に大きな問題として現れているということである。インドネシアは人口が多いから、と軽視している間に、インドネシア・ジャワでも3チャン農業が主流となり、機械化の必要が出てくるかもしれない。ASEAN自由貿易化で、輸入農産物の比重が益々増え、食糧自給への意欲が薄れてくるのではないか。

程度の差こそあれ、これもまた、インドネシアと日本の現実とを重ね合わせて見ることができるのではないか。

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